未曾有の価格高騰を見せているアジアのアートマーケット。オークションでも香港クリスティーズが活気を見せている。そんな中、2006年5月28日の香港クリスティーズ・オークションでエスティメートの3倍、750万円相当で落札されたのが、東京画廊で取り扱っている日本人作家、西澤千晴だ。描かれているのは、サラリーマン群像?!
たぶん、上の図版だけではその面白さが十分に伝わらないんじゃないだろうか。サラリーマンの群れがジオラマっぽく描かれているというくらいしかわからないけれど、寄って、もっとずーっと寄ってみると、なんともその芸の細かいこと。 肩を組んで仲良く行進しているバーコードおやじたち。そのかたわらではロープで首と首をつながれたおやじの一団がとぼとぼ歩いている。また別のところではとっくみあいの喧嘩になっている2人のおやじがいる。西澤さんはスーツ姿のおじさんがいっぱい登場する作品を描いている。 「ひとりとして同じポーズはいないんですよ」。 「学生以来、人物を描くことから遠ざかっていたので、人物を描こうと思った時にモデルを探したんです。鉄道模型のフィギュアで面白いものがあるなと思ってそれを買ってきたんですが、そのなかにたまたま体操着を着ている人形を見つけて、それをモデルに体操着姿の人をいっぱい描いた絵を発表したんです。その後、より現実の景色に近づけたいと思ってスーツ姿のおじさんを描くようになりました」
一見同じ、でもよく見れば微妙に違っている。それを探すのが楽しい。 「画一社会的な日本を皮肉っていると言われます。それもなくはないけど、でも本当はそれぞれ個人単位で見ていったら、平凡と言いつつ結構豊かで面白いじゃないか。そう思って全員の動きを変えていくようになったんです」 この人はこんなことを考えて、こんな場面に遭遇している。作品をつくるときは、キャラクター一人一人のストーリーを考えるという。 「ぱっと見て衝撃を与えるような作品ではないかもしれない。でもついつい長く立ち止まって見てしまう、そんな作品をつくりたいですね」。 事実、あっコイツひとりで転んでる、とか、なんでこの人ゴミ袋に詰められているんだろう・・家に飾ってあったら、いつまで見ていて飽きない気がする。小さな発見が日々ある、そんな感じ。 さりげなく、技術的にも凝っている。人物を描く際はエッジを際立たせるため、マスキングテープを人型にくりぬき、そこに絵の具を塗り重ねていくという気の遠くなるような行為が繰り返される。余白の感じなどは日本の古典絵画の構図の応用だ。建物は、源氏物語絵巻などに使われている「吹き抜け屋台」の描法で描かれる。 「今の世の中を描くのにとても便利な技法だということに気づいたんです」。 この西澤千晴の作品が今、アジアを始め、世界中で人気を博している。冒頭で述べた香港クリスティーズにとどまらず、同じ時期に同じく香港のAmelia Johnson Contemporaryで個展が開催され、また各国のアートフェアなどでも大好評だという。この10月11日からは韓国・ソウルのDo Art Galleryでも個展が始まった。 取り扱い元である東京画廊/B.T.A.P ディレクター田畑氏の言葉。 「西澤君は日本よりむしろ海外で作品を発表する機会の多い作家です。来年2007年には東京画廊で新作による個展を企画しています。同じ時期に北京にあるスペース、B.T.A.P. でも大々的に西澤君の作品を発表します。日本、アジアはもちろんのこと、世界各国での活躍が一層期待される作家ですので、これからの西澤君に是非ご注目ください。」 所属ギャラリー東京画廊のギャラリストが語る中国アートシーンの今! (インタビュー収録/9月14日 東京画廊にて) ![]() |
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