三木淳賞、さがみはら写真新人奨励賞の同時受賞おめでとうございます。
2007年はフォトグラファーとしてどのように活動される予定ですか?
ありがとうございます。「冒険家」と呼ばれることも多いのですが、自分から肩書きを名乗ったことは今までありません。それは「フォトグラファー」と呼ばれることにも共通しています。肩書きはフリーターでも何でもよくて、ほかの誰でもなく、ただ「石川直樹」でありたいと願っています。写真の仕事の依頼があればその比重は大きくなるかもしれませんが、 僕自身の立ち位置は昔からまったく変わっていないと思っています。「冒険家」であっても「フォトグラファー」であっても、写真に対する認識というのは常に同じだと考えています。「世界を旅して、写真を撮る」というスタンスは、去年も今年も、そして来年も、おそらくずっと変わらないでしょう。
写真集『THE VOID』を制作した経緯を教えてください。
『THE VOID』は、ニュージーランドの北島にある原生林で撮影しました。カヌーによる昔の航海術に興味があって、古いカヌーにまつわる伝統航海術の研究を続けていくうちに、その原材料になる木を探しながら、太平洋の島々を旅するようになったんです。昨今は島に原生林が少なくなって、大きなカヌーをつくるための木材がとれない。カヌーづくりが今も現役で行われていて、しかも自分の暮らす島の森からカヌーをつくっているのは、ニュージーランドの北島くらいだったんですね。そうしたカヌーのルーツをたどって北島に行ってみると、ニュージーランド先住民のマオリの人々に出会いまし た。マオリのチーフのひとりにカヌーが生まれる森について尋ねると、写真集で撮影した森を教えてくれたんです。マオリの森は手つかずだから美しいのではなく、マオリの人々がともに暮らし、人といっしょに生きてきたにも関わらず、圧倒的な生命力を保ちながら今にいたっている。結局、2005年のあいだに2回、延べ2か月ほど森のなかで、写真を撮りました。そのときに撮りためた写真を、写真集『THE VOID』として刊行することになったのです。
旅はいつからされているのですか?
また、旅の道中に写真を撮るようになったきっかけも教えてください。
僕の初めての海外ひとり旅は、高校生のときに行ったインド・ネパール旅行です。バックパックを背負って1か月間旅をして、すでにそのときから記録としての写真を撮っていました。それが、今も続いているだけなんです。
初めて旅の写真を撮った高校生の頃と現在を比べて、写真に対する考え方の変化はありましたか?
20歳のときに、写真の専門学校に通っていた時期があって、その頃から撮影に関するスタンスが明確になっていきました。ただし高校生の頃と現在を比べても、基本的に撮影する被写体は変わっていません。機材は中判カメラの「マミヤ7」と「マキナ670」をそれぞれ2台ずつ使っていて、昔に比べるとフォーマットが少し大きくなりました。変わったのは、それくらいで、ファインダーの先で見ている被写体は、なんら変化していないと思います。
石川さんが「撮りたい」と思う瞬間はどんなときですか?
それはもうやはり、「今だ」と思った瞬間でしかありません。『THE VOID』の撮影のときは、すぐに「この森いいな」と感じました。生命力に溢れていて、なんだか押しつぶされそうだった。原生林というのは、地球ができたときからそこに在り続けた森のことですが、その森の奥に、途方もない時の流れと大地の記憶、そして考えられないほどの豊かな生物がいるんです。そういう森に身を置いているだけで、「すごいな」と素直に感じてしまう。撮影のときは、本当に偶然の出会いにまかせるだけですね。
今後行きたい国や、やってみたい仕事について教えてください。
今は北極圏をまわっています。アラスカ、ノルウェー、グリーンランド、カナダ北部など北方の文化圏を撮影していて、今年はシベリアに行けたらいいなと思っています。3月に個展を行う予定なので、ぜひ見に来てください。 |