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オランダは地球のかなり北の方に位置しているので、夏至が近づいて夜10時過ぎても外は明るいです。そして、ぼくのアパートはスキポール空港が近いので、晴れた日夕暮れ時に、ソファーに寝っ転びながら空を見上げると、いくつも飛行機が飛んでいるのが見えます。それらの飛行機は定期便だから、きちんと同じ時間に、ちゃんと同じ方向に飛んで行くのだけど、「あ、あれは北に向かっているからイギリスに飛んで行くんだろうな」とか、「これは南東だからきっとギリシャだなあ」とか、そんなことを考えながら眺めるのが夕食後の日課になりつつあります。そして眺めながら、そういえばアムステルダムに住み出してから、あまりどこかに行きたいという欲求はなくなってきたなと気づきました。ここにくるまでは、「ここではないどこか」に行きたくてたまらなかったのに。それが今ではただ「ここにいるだけ」で「ここにはないどこか」に行きたいという欲求が解消されるているんですよね。
ぼくはここに来るために移動して来たのだから、きっとここにいればいいんだなと思いました。昔、世界中を旅行していたとき(ぼくの本『Line on the Earth』を参照にしてください)は、ちょっと勘違いして、移動すること自体が目的なのかと勘違いしていたけど、やっぱりどこかその人にとっての「ここ」を見つけるために、人は移動するんじゃないかと思っています。
たとえば、「タコ」って陸のどこで離しても海の方に向かってゆくって知っていました? 「タコ」は海に戻りたいんですよ。「タコ」は海が好きでしょうがないんですよ。海が「タコ」にとって一番素敵な場所なんですよ。だから「タコ」は自分の一番いるべき場所はぜんぜん迷っていないということです。ぼくは、「タコ」が海に戻るまでの道程を『移動』って呼ぶんじゃないかと思ったりします。

そういえば、船に三毛猫のオスを乗せると、見渡す限りの大海原のなかで遭難して、どこに船がいるのか、人間にすらも分からない状態でも、彼がニャーニャー叫ぶ方向に進むと、陸に着くというのを知っていますか? 三毛猫のオスは陸に戻りたくてしょうがないんですよ。三毛猫のオスは陸が好きでしょうがないんですよ。だから三毛猫のオスは、自分の一番いるべき場所はぜんぜん迷ってないということです。三毛猫のオスにとっては大海原から陸に戻るまでが『移動』なわけです。
人間はちょっと色んな要素が増えちゃって複雑になってしまったから、移動自体が目的になったりするかもしれないですが、きっとそれは違うんじゃないかと思います。
タコに海。
三毛猫のオスに陸。
そしてそう、ぼくにはアムステルダム。
そんなことを考えながら観葉植物に水をあげていました。再び空を見上げれば、今日は飛行機雲がクロスしています。きっと明日はいいことがありそうな気がしますよ。
2009. 5. 31