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佐内正史×@GALLERY TAGBOAT
インタビュー 写真家・佐内正史に、街を歩きながら話を聞いた
この間、いい感じの場所に住んで、いい感じの生活をしたいってちょっと思ったりしたんだよ。でもそれは、ハッピーだし楽しいと思うんだけど、そういう人が撮った写真を俺見たいかなと思ったらやっぱり見たくないんだよね。そういう幸せ感みたいな写真って。それでそういう場所に住むの違うなと思ってやめた。

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―― 街の空気が少し違ってますね。この辺りは。

佐内 「環八から1 本中の道に入るだけで、変わっていくよね。音や空気が。ちょっと『生きている』臭がしてきた気がしない?

荻窪はわりと若者もいないし、高円寺とか吉祥寺に比べると特徴の無い住宅街なんだよ。それが良かったんだと思う。

特徴があると味のある感じだったりとか、感覚以外のものが写っちゃうから。それはその当時からそう思ってた。自分の感覚だけを表現しようと思っても、えてして対象に持っていかれちゃうんだよね。みんな、写真って対象を見るから。写っているものをね。でも俺は写真で感覚を表現したいってずっと思っていたから。

この間、いい感じの場所に住んで、いい感じの生活をしたいってちょっと思ったりしたんだよ。でもそれは、ハッピーだし楽しいと思うんだけど、そういう人が撮った写真を俺見たいかなと思ったらやっぱり見たくないんだよね。そういう幸せ感みたいな写真って。それでそういう場所に住むの違うなと思ってやめた。」



写真集『Chair Album』より
写真集『Chair Album』より



―― 昔撮った写真を今でも見ますか?

佐内 「全然見ない。写真集とかもほとんど見ない。作ったら終わっちゃうのかな。その代わり最初に現像してプリントが出来上がった瞬間に、すごいゆっくり見る。そのときは1 枚1 時間くらいかけて眺めていたりする。」

―― 1 枚の写真に1 時間ですか?

佐内 「うん。でも、そんなに良い写真多くないから。1 日1 枚良い写真があればいいんだけど、意外と無い。」

―― 撮ってきたその日に現像するのですか?

佐内 「いや、全然違う。5年前のも、10年前のも15年前くらいの前のやつもプリントしていないのがまだいっぱいある。」

―― 早く現像したいとは思わないんですか?

佐内 「思うときもあるけど、生活があるからさ。なかなか時間がとれない。でもその方が、写真にとっては良いと思ってる。生活しながらやっていくといろんなことが整理がつかないまま、終わっていくよね。それがいいんじゃないかな。写真にも現れてくる。そこに片付かないままたまっている何かが。」