さて、今回は森山大道です。ここ数年でとみにその名が一般化された感がありますが、僕が初めて知った20年前にはすでに写真界のカリスマ的存在でした。当時のカメラ小僧たちに与えた影響は甚大で、僕にとってもほとんどトラウマになっています。いまでもぼんやり考え事をするうちに彼のことが頭に浮かんで来ることがあって、いいかげん忘れてしまいたいと本気で思ったりします。じつに厄介な存在です。 いまから20年前といえば、80年代の半ば、僕は大学生でした。ろくに知りもしないのに何故だか70年の安保闘争にあこがれていて、あそこに行ったら思いっきり暴れられると勘違いして入った大学でした。けれども15年も前の状況がいつまでも続いているはずはありません。ふつうに考えればわかりそうなものなのに、間抜けな話です。入った途端、がっかりしました。 まわりの学生は「ノンポリ」とかいって、勉強すらせずにテニスサークルでちゃらちゃら過ごすのです。みんな小奇麗で屈託なく楽しげなのが、余計に居たたまれませんでした。不満も疑問もなく、与えられた状況に満足しきっているように見えました。 バブルを目前に控え、年ごとに変な熱気を帯びていく時代でした。 「豊かになった。とうとう欧米に追い付いた」。そんな錯覚に酔いしれたのがバブル時代です。「東京の土地の値段でアメリカ全土を買える」。そんな誇大な妄想にみんなが興奮していました。今思えば、その裏には「40年前の敗戦のくやしさをついに払拭できた」という高揚感があったはずです。ある種の躁状態というか、世の中全体が肯定的な雰囲気に覆われ、ふわふわとし始めていました。 いまさら何に不満を持てというのか。僕は吠える相手、噛み付く敵が見当たらずにイライラと欲求不満の募る毎日を送っていました。何より辛かったのは、自分の居場所を見つけられなかったことです。 (7月号へつづく) タカのリュウダイ/’07/06/08 次回のUP日は、7月6日を予定 ※エッセイ中に掲載の作品は全て販売しております。
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