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月刊『たかのカメラ』 鷹野隆大 × @Gallery TAGBOAT

 

エッセイ 『偉大な写真家を目指す人のために』

6月号 8月号
鷹野隆大 写真作品 「'04/07/27」 7月号('07) 〜ああ大道(その2)〜
「'04/07/27」 ※掲載作品は、画像をクリックすることで購入可能です。

鷹野隆大 写真作品 「'02/07/XX/ ♯1」
「'02/07/XX」

 (承前)僕は自分の居場所を探して、芝居をやったり、絵を描いたりしました。けれども芝居は生身の肉体を曝す感覚がどうしても理解できずにドロップアウト。続いて試みた絵はちょっとはマシでしたが、なかなかデッサンが上達しません。頭にあるイメージを描き出すという絵画独特の作業も地に足つかない感じで違和感がありました。


鷹野隆大 写真作品 「'07/04/09」
「'07/04/09」

 何をやってもうまくいかない。何をすればいいのかわからない。先月号では「毎日イライラしていた」というようなことを書きましたが、実際は「ただ呆然としていた」という方が正しいかもしれません。体がだるくて、寝てばかりいました。そんな中で森山大道に出会ったのです。


鷹野隆大 写真作品 「'07/05/27」
「'07/05/27」

 重い体を引きずりながら古本屋に入ったときでした。片隅に『季刊/写真映像』という古い雑誌を見つけました。ピンクがかった肌色の背表紙が気になってパラパラめくると、暴力的な写真が飛び込んできました。ブレて、荒れて、ボケボケの無茶苦茶な写真でした。


鷹野隆大 写真作品 「'07/06/07」
「'07/06/07」

 <電車が傾き>、<乳母車の赤ん坊が歩道に溶け出している>。<目をつぶって熱唱する子供をドアップで写したテレビ画面>をスナップショットしたその隣りには<突き刺すような戦闘機の機影>。<車の窓から見える原野>、<電車の向かいに座るパンツが見えそうなミニスカートの女の足>、<眠るサングラスの男の横顔>。<暗く焼き込まれた海にポッカリ浮かぶ船>、<目玉をくり抜かれた白人の女があえいでいるかのようなポスター>、<光が降ってくるような高層ビル>、‥‥


鷹野隆大 写真作品 「'07/06/01」
「'07/06/01」

 69年の暮れに発行された雑誌でした。安保闘争が最高潮に達した頃です。淀んだ頭にどっと血が流れ込みました。痕跡程度しか写っていないボロボロの写真が強く働きかけてきます。当時の空気が生々しく伝わってきて、古い記憶が一気に蘇りました。それは、頭の奥底にべったりと貼り付いていた貧乏くさい日本の光景でした。豊かになる中で忘れようとしていた風景でした。(大道人気の秘訣はこんなふうに人々の記憶を触発することにもあると思います)


鷹野隆大 写真作品 「'07/04/05」
「'07/04/05」

 妙な言い方になりますが、僕はこのとき初めて日本の風景を見たのです。それまでは自分の日常にまったく価値を認めていませんでした。真理だの思想だの美だの、夢のような抽象ばなし噺で頭をいっぱいにして、目の前の現実を無視しつづけてきました。内面を形にすることが表現であり創ることだというロマンチックな考えを無邪気に信じ込んでいました。


鷹野隆大 写真作品 「'02/07/15」
「'02/07/15」

 おれの内面なんてクソ喰らえだ、世界はこんなに凄い。
 彼の写真が、僕の眼を開いてくれたのです。
 間もなく、カメラを片手に街をぶらつくようになりました。もはや特別な何かを「創る」必要などありませんでした。世界を受け入れてシャッターを押すだけです。


鷹野隆大 写真作品 「'07/05/11」
「'07/05/11」

 撮る、撮る、撮る、それ以外にやることは何もない。敵をぶっ潰すために撮れ、わからないものを呑み込んでしまうために撮れ、好きなものを手に入れるために撮れ、感じたら撮れ、からっぽの頭で撮れ。やつらにつかまるな。胸が破裂するまで逃げ続けろ。きっとうまくいく。だって、押せば写るのだから。
 あのときの解放感は今も忘れません。


タカのリュウダイ/’07/07/02

次回のUP日は、8月3日を予定

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